相続対策
相続を巡るさまざまなトラブルを回避するには、生前に相続対策を行っておくことが大切です。相続対策は相続税などの税金面での対策に留まらず、相続人の心情にも配慮し、より広い観点から施しましょう。
今回は、相続税と相続トラブル対策といった視点で解説します。
相続対策における基本的な考え方
生前対策を適切な形で進めるには、相続トラブル対策・相続税対策・納税資金の確保の3点がポイントになります。
相続人同士が争わないために、どのような点が問題となりやすいか、相続税金対策にはどんな制度があるのかを知り、自身に必要な対策を整えていきましょう。
相続人が困らないように、争わないようにするための対策
相続対策の基本は、相続争いが起きないように十分に配慮して誰に何を相続させるか決めること。それだけではありません。相続税の負担を軽くするために、財産の評価額を下げたり、財産を処分することや、納税資金を確保することも相続対策に含まれます。
財産のほぼすべてを自宅不動産が占め、配偶者がそれを相続した場合、他の相続人が配偶者に対して遺留分を請求すれば、配偶者は遺留分を支払うために自宅を売却しなければならなくなることがあります。また、遺産の不動産の売却について相続人の意見がまとまらず、売却に至るまでに時間がかかって相続税の納付までに現金が間に合わないといったケースも考えられます。
相続トラブルを避けるための対策
相続人が揉めやすいポイントをあらかじめ整理し、遺言書を作成しておけば、トラブルを未然に防ぐことができます。ここでは、争族防止の基本中の基本である遺言書の作成と、相続人の範囲の把握について解説します。
遺言書をきちんと作成しておく
相続に関するトラブルは、相続人同士の不公平感から発生しやすいものです。遺産分割協議がまとまらなければ、金融機関の手続きや相続登記が進まずに、相続手続きそのものが滞ってしまいます。
遺産について誰に、どのように分けたいかといった意向は、遺言書を作成することできちんと意思を示しておきましょう。民法に則った形式で自筆証書遺言や公正証書遺言などを作成しておくことで、相続人同士が争うことをある程度防ぐことができます。
遺言書の保管については、公正証書遺言は原本を公証役場が預かるので紛失・改ざんの恐れはありません。自筆証書遺言の場合も、自宅保管ではなく法務局に預ける遺言書保管制度を利用すれば安心できるでしょう。遺言書作成の際は、相続人の遺留分に配慮が必要です。
遺留分は相続人が最低限確保できる相続分ですので、きちんと配慮をしないと、かえって相続人同士のトラブルを招いてしまう要因となります。専門家などのアドバイスを基に、相続人が納得できる形で遺言書を作成しましょう。
相続人の範囲・相続財産管理人
相続トラブルを回避するためには、誰が自分の相続人となるのかを把握しておく必要があります。法律の規定では、まず配偶者は最優先で相続人となります。
次に、子ども・親・兄弟姉妹の順番で相続される点を押さえておきましょう。相続人は、配偶者と子ども、子どもがいない場合は配偶者と親、子どもも親もいなければ配偶者と兄弟姉妹となり、配偶者・子ども・親・兄弟が一度に相続人となるわけではありません。相続人がいない場合には死後に相続財産管理人が選ばれて、最終的に遺産は国庫に帰属することになります。
相続人以外の人に遺産を残したい場合や、お世話になった団体に遺贈したい場合も遺言書が必要となります。
相続放棄・限定承認の手続き
遺産として遺す財産はプラスとなるものばかりでなく、マイナスのもの(借金や保証債務など)もあります。借金がある場合には、生前に債務整理をして問題を解決しておきたいものです。
ただし、相続人が相続放棄の手続きを行えば、相続放棄の場合であれば相続人となること自体を放棄できます。また、限定承認を行えばプラスマイナス差し引いてプラスの範囲でだけ財産を相続することができます。
相続放棄や限定承認の手続きは、相続開始後3ヵ月以内に行う必要があるため、マイナスの財産がある場合は、被相続人となる人は相続人にマイナスの財産がある旨を事前に伝えておきましょう。
相続税の負担を軽減させるための対策
相続税の負担を軽減させるために有効な対策はいくつかあります。生命保険の活用・居住用財産贈与の配偶者控除・小規模宅地特例の利用・子や孫への贈与・ジュニアNISAなどです。それぞれの対策についてポイントを解説します。
生命保険をうまく活用しよう
生命保険の死亡保険金は、一定額の相続税控除が認められています。具体的には、受け取った死亡保険金から「500万円×法定相続人の数」の金額を差し引くことができるので、税金対策として有効な手段です。また、死亡保険金であれば、遺産分割協議とは関係なく受取人が現金を得られるので、納税資金や遺留分の請求に備えて特定の相続人を受取人にしておくのは有効な手段です。
居住用財産贈与の配偶者控除
配偶者がいる場合には、自分の死後にきちんと生活が成り立っていくように対策を立てておく必要があります。居住用財産贈与については配偶者控除が認められているので、自宅や増改築のための費用を生前贈与する方法もあります。最大で2,000万円までの贈与分が控除対象となります。婚姻期間が20年以上の夫婦が対象となる点には注意が必要です。
また、2020年4月1日より、残された配偶者が被相続人の死亡時に住んでいた建物を亡くなるまで又は一定の期間、無償で使用することができる配偶者居住権が施行されました。これは、相続発生後の配偶者の住まいの確保という観点から制定されたものです。自然発生する権利ではなく相続発生時に主張しなければなりませんので、やはり自宅は配偶者に遺す旨を遺言書に書いておくことをお勧めします。
小規模宅地の特例を利用する
小規模宅地の特例とは、宅地を相続するときに、一定の面積までの評価額を20%もしくは50%まで減額できる制度のことを指します。控除率が高めに設定されているので、相続対策の1つとしては検討したい制度です。
自宅や賃貸借以外の事業に利用していた場合は20%の減額、アパートなどの賃貸業に利用していた場合には50%の減額となります。
子や孫への贈与
子どもや孫がいる場合は、マイホームの購入資金として贈与する方法があります。省エネ対策を施した住宅であれば1,200万円まで、それ以外の住宅であれば700万円までの贈与が認められています。
また、結婚資金や子育て資金、教育資金として贈与するのも有効です。結婚資金については300万円までですが、それ以外のものは最大で1,000万円までが非課税となるので、大きなメリットがあります。
ただ、子どもや孫が複数いる場合には、不公平感が出ないように配慮が必要です。全員に対して一律の金額を贈与するなど、ご家庭の状況に合わせて柔軟に検討してみましょう。
未成年の子どもならジュニアNISA
未成年の子どもがいるご家庭であれば、ジュニアNISAを活用してみるのも1つの方法です。ジュニアNISAは未成年の子どもがいれば開設でき、株式の売却益や配当金などが非課税となります。
非課税投資枠は年間80万円まで、非課税期間は最長5年間と決められているものの、子どもや孫が多くいる場合には特に効果を発揮します。ジュニアNISAの口座を開設して贈与をすることで、子どもや孫の将来のための資金として活用できます。
納税資金を確保するための準備
相続人が納税資金のことで頭を悩ませないための対策としてできることを押さえておきましょう。きちんとした対策を立てるためには、相続税の仕組みや課税されるタイミングについて把握しておくことが重要です。
死亡保険金・死亡退職金の活用
未成年の子どもがいるご家庭であれば、ジュニアNISAを活用してみるのも1つの方法です。ジュニアNISAは未成年の子どもがいれば開設でき、株式の売却益や配当金などが非課税となります。
非課税投資枠は年間80万円まで、非課税期間は最長5年間と決められているものの、子どもや孫が多くいる場合には特に効果を発揮します。ジュニアNISAの口座を開設して贈与をすることで、子どもや孫の将来のための資金として活用できます。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度とは、最大で2,500万円までを贈与税の負担なく贈与を受け取ることができる仕組みのことであり、贈与した人が亡くなった際に相続税として一括で納付する仕組みのことです。税額を算出した結果、納めるべき相続税がない場合でも、さかのぼって贈与税が発生しません。
2,500万円を超える贈与を行ったときには20%の贈与税が発生するものの、相続税を算出する際に贈与税としてすでに支払ったものは控除されます。また、贈与者ごとに活用できる制度であるため、たとえば両親が子どもに対してそれぞれ贈与を行うならば、最大で5,000万円まで贈与税が発生しない仕組みとなっています。
ただし、年間110万円までの贈与税が非課税となる暦年贈与の制度とは併用できないので注意しておきましょう。
延納や物納は不利に働くこともある
相続税は原則として現金で納める必要があるため、被相続人の財産が不動産や株式ばかりであれば、多額の相続税が発生したときに対応できなくなる恐れがあります。延納は最長20年までの分割払いが認められてはいますが、延長する期間が長ければ長いほど利息の負担も重くなります。
また、物納は現金ではなく相続した不動産などで納税を行う方法ですが、相続税評価額で算定されるので時価よりも安くなってしまうので注意しましょう。時価の7~8割程度の金額となることが多いです。
相続税を納付するまでの期間は、相続発生から10ヵ月なので事前に相続対策を行っておき、納税資金を確保しておくほうが無難です。相続財産に相続税がかかると見込まれる場合には、現金で納税できる段取りを整えておきましょう。